Regulus

獅子秘書置き場

1年365日のお題-3月

01  馬子にも衣装
新しい依頼主と初めて会うのと、その後にパーティーもあると聞いて、俺はもちろんアンドリューにもいつもより着飾ってもらった。こんな格好は君だけでいいという視線と、俺にしか分からないような溜息ばかりついている。元がいいから何着てもどんな髪型でも似合う。でも眼鏡はそのままな。


02  差し入れ
撮影の仕事が長引きそうだと連絡が入り、軽くつまめる夕食を見繕ってスタジオへ向かうと、休憩中のライアンの姿が見えた。俺の姿を見つけて嬉しそうに寄ってくる姿が大きな動物みたいだなと微笑みつつ「終わるまで食べれそうになかったから助かった」と、俺の持つ袋の中身を見て喜んでいた。


03  お人形
綺麗な人形みたいだな。初めてアポロンメディアに行って、あの男と秘書の彼を見た時に思わず口走った言葉。秘書が男、揃いのスーツ、他にも俺の洞察力が見抜いたことは多々あった。皮肉だったと相手も認識していただろうが、純粋な褒め言葉でもあったと伝えたのは随分後の話。


04  その姿、様になってるよ
ジャケットもスーツも着慣れてるからそれ以外の、ラフでカジュアルな感じも見てみたいと、一応断ったもののショップに連れてこられて、さっきから着せ替え人形だ。ライアンがよく行く超高級なところじゃなくて良かったと安心はしたけれど、慣れない服に違和感のオンパレードだ。


05  切り替えできてる?
疲れているのか、煮詰まっているのか。ピリピリした空気をまとったアンドリューが眉間に皺を寄せている。今日の仕事も事件も終了したのに、これではろくに寝に入れないだろう。度数低めのアルコールをグラスに入れて目の前に出すと、ゆっくりと手が伸ばされた。こんな夜もあっていい。


06  解せない、絡まった糸
昨夜はライアンが用意してくれたアルコールを飲んで、そのまま眠ってしまった。シャワーも浴びず服もそのままで寝たからシャツも皺だらけ、更に羽織っていたニットカーディガンの編み目がライアンの服のボタンに絡まっていて、眠れたのは良かったけど寝起きから落ち込んでいる自分がいる。


07  ゴミ箱目掛けて
紙くずをゴミ箱へ投げ入れる。見事に入った一種のゲーム性を持ったそれを見ていた彼は、すごいなとただ感動していた。こういうの入った験しが無いから普通に捨てた方が早いといつからか諦めたらしい。投げて入らなくて周りが汚れるとか、二次被害が起こらないもので試してみたらいい。


08  残り少ないページ
この家に来てからずっとつけている日記ノートが残り少なくなった。買った時は一冊書ききることが出来るか不安だったのに、全部のページが埋まって最初より嵩張ったそれを見ると感慨深い。最初と今では書き方も少し変化しているし、ライアンの出番が増えたのも半分より後の話。


09  今日の夕飯
作ってくれた物は喜んで食べるし、自分が作る時はその時に食べたい物を。メニューに悩んだ時は相手に聞くと、大抵自分が考えてもいなかったものが返ってくるから逆に面白い。さっぱりしてるものが好みかと思えば、肉と言う時もある。色々食べるようになったのは俺の影響なのかもしれない。 


10  公に出来ずとも
この関係を公言せずとも、いつか秘密じゃなくなる時がくる。俺はそれまでこのままでいいと思ってるが、彼は隠すつもりもないし、早くばれた方が俺にとっても気持ち的に楽になるのではという言い分も分かるが、どちらにしても相手が自分であることに後ろめたさを感じることには変わりない。


11  手当てくらいさせてよ
ナイフで切る音が止まった代わりに小さな声がキッチンから聞こえた。やんわりと声をかけたつもりが頑なにこちらを向こうとしない。怒ったりしない、心配してるだけだ。小さな怪我ならそれでいい。ただ絆創膏ぐらいは貼らせて欲しい。もう一度名前を呼ぶとゆっくり指が差し出された。


12  力比べ
腕相撲しようか。する前から結果が見えてる勝負を言い出すなんて何の冗談か、それとも何か罰ゲームでも俺にさせたいのだろうか。勘ぐってしまう視線に気付いてライアンが苦笑いする。「筋トレの成果、試したくない?」知られないように続けていたのに、いつから気付いていたのだろう。


13  見事なり
筋トレをしていることには気付いていた。見た目が変わってきたと分かるぐらいだから、もうそれなりの期間やっているのだろう。一緒に住み始めた頃は体も食も細かったのに、今ではすっかり男らしい。なんて考え事をしてる時はまだ余裕があった。俺からふっかけた勝負、やばい、負けるかも。


14  三倍返し
楽しみにしとけよ、と言い残して出動したライアンの背中を見送る。一ヶ月前に作って渡したチョコのお返しがもらえるらしい。あの日は俺も貰ったから言わば交換、ならば今回も交換した方がいいのでは。同じ物を作っても芸が無い、少しアレンジするだけにしよう。…間に合うだろうか。


15  瞳に映る世界
復讐だけを考えていた頃は目に映る全てが色を失っていて。意識を奪われないように自ら消していたんだ。そんな中でも君は眩しいと感じた記憶がある。今は全てが綺麗だと思えるようになったと聞いて、抱きしめずにはいられなかった。そんな世界を見せてやれたらとずっと願っていたのだから。


16  そんなこと言ってる場合?
他愛もない昔話をしただけで、そんな雰囲気では無かったのに。何でスイッチが入ったのかライアンに抱きしめられて身動きが取れない。夕方といえどまだ陽は沈みきってなくて部屋も明るい。そうだ、今日は夕飯をリクエストされたから今から準備しないとと押しのけようとした手も封じられた。


17  名残惜しい
自分の存在や行動で相手の世界観が変わる。その力があると自覚していても面と向かって言われると、ましてやそれが恋人からとなると、嬉しいを通り越して愛しくて堪らなくなって、抱きしめたら離せなくなった。このまま寝室になだれこみたい勢いなのを我慢して、名残惜しくゆっくり離れた。


18  縁の下の力持ち
表舞台で活躍するライアンのサポートに徹する仕事は向いているし誇りに思っているが、一人の時より自由に動けるのは俺のおかげだと礼を言われて、素直に礼を言い返せば良かったのに、言葉が出てこなかった。感謝することはあっても、されることは無いと勝手に思い込んでいたからだろう。


19  夜の公園
事件の処理が長引いて遅くなった徒歩での帰り道、暗い公園を横切ろうと踏み入ると、人の多い休日や昼とは違う雰囲気に妙に落ち着いた。まだ冷たい風に顔を撫でられて思わず肩をすくめる。たまには落ち着く、けれどやはり完全に気が抜けるのは愛しい恋人達が待つ我が家だけだ。


20  涙声
怪我をしたから手当てをして欲しいと、自分で歩いて帰ってきた割には酷い傷をこちらに向けて笑うから、消毒液でひたひたのコットンを幹部に置いた。相当沁みただろうに叫ばないあたりはさすがヒーローというべきか。もうちょい優しくしてという涙混じりの声が小さく聞こえた。


21  春が来た、って思うと
怪我さえしてなけりゃどこかへ出かけようかという天気で気分もいいのに、今日はちょっと言い出しにくい。手当てさせたこと、まだ怒ってんのかなと様子を伺っていると、モリィのケージを持ち出してどこか出かけるのかと尋ねたら、散歩行きたい天気でしょう?と返ってきた。


22  成績優秀者
秘めた計画を実行するため、あらゆる手段を使えるように知識を叩き込んだ結果、それなりに出来る人間という目で見られるようになったのは成功だった。覚えた知識は今も役立っているし、無駄になったのは復讐に囚われていた時間だけだと自嘲気味に話すと、それも無駄じゃないと諭された。


23  あったか
昼寝でもしたいくらいの心地良い気温の中、冷えるような話題を振ってくるのはアンドリューの癖なのか。復讐に費やしていた時間は無駄だったと話す彼に、あの事件が無ければ今こうして一緒にいる可能性が少なかったのではと言うと「そうかな…」と目を伏せた後に「そうだな」と顔を上げた。


24  どうして私だけ…
父がいなくなった後にどうして自分だけがという思いに取り付かれ、周りのせいにしようとした幼い自分は、そうでもしないと気が狂いそうだった。あの時もう少し大人だったら、なんて今更なことを考える。今とは違う未来があったかもしれないけど、俺はこの未来で良かった。


25  ホットコーヒー
「美味しい」ふと口元を緩めて微かに笑う顔が毎日見れるのは俺の特権だと思ってる。アンディ好みの豆が手に入ったから、いつもは淹れてくれることの方が多いコーヒーを、今日は俺がじっくり時間をかけて用意する。一緒に買ってきた焼き菓子もセットして、リビングのソファへ誘う。


26  渡り鳥の群れ
たくさんの渡り鳥が写ったポストカード。ライアンから送られたものの一つで、今でも大事に保管している。暖かくなってきたから北に向かう、と裏に書かれたカードを見て、本当に世界中を旅しているのだと感動した昔を思い出す。今では俺もすっかり渡り鳥のようだ。


27  言葉って何の為にあるの
思ってることを言葉にするのは苦手だって知ってるから、出来るだけ汲み取ろうとは思ってる。けどそれに甘えて何も言ってくれないのは困る。誰よりも分かってきた自信はあるけどまだまだ情報は足りない。端的でもいい、勝手に組み立てて想像して考えるから、少しでもいいから伝えて欲しい。


28  引き裂かれるような
思ってること全部じゃなくていいけど少しくらいは言葉にして欲しい。そう言われて、ライアンに甘えていた自分に気付いて胸が苦しくなった。負担にならないようにとあれだけ注意していたのに。小さな声で謝ろうとした言葉は途中で遮られ、それは要らないと断られた。


29  灯りのない部屋
月がとても明るい夜は、カーテンを全開にして月光のみの神秘的な部屋の窓際に座る。近くにはいるけど口数少なめに、ただひたすら静かな空間と儚げな光の中で互いにリラックスするこの時間が、俺はもちろん、何回か一緒に過ごす内にアンドリューも気に入ってくれたみたいだ。


30  唄に込める思い
歌の仕事が入り、今回は作詞もして欲しいと依頼されて、さっきからキーボードを打つライアンの指が動いたり止まったりを繰り返している。暫く苦戦した後に手伝ってと言われて、思いついたまま単語を呟く。君を連想させるようなフレーズだということは、メモっている本人には黙っておく。


31  心機一転
明日から新しい仕事も始まるし、髪を切ろうと思い立ってすぐ行動に出た。帰宅した俺を見て恋人が口を開けて驚いていたけど、似合うと言って俺の項に手を伸ばして撫でるから、俺も撫で返す。項が隠れるほど伸びたアンドリューの髪は触り心地が良くてずっと触っていたくなる。


こちらのお題をお借りしています。
http://www.geocities.jp/miayano/odai/365.html