Kiss before sleep
おやすみ。
そう言って唇にキスをすると、アンドリューの身体は決まって強張ってしまう。
挨拶だとこちらが言っても、習慣が無い相手にしたらそれは挨拶には取れず、徐々に自分のしていることが嫌がらせのように思えてくるから困ったものだ。かと言って、慣れてくれというのも傲慢な気がして仕方ない。
軽く触れるだけにしているが、唇なのが問題なのかもしれない。ふと思い立ち、その日の夜は額におやすみの挨拶を落とした。いつも顔しか近づけないのに、前髪を掻き分けるために手を近づけたからか一瞬肩を揺らしたものの、すぐに終わった挨拶に呆けて瞬きもせずにこちらを見ているアンドリューに小さく笑って、おやすみを告げた自分の寝室へと足を向けた。
「…そうか」
背中を向けたアンドリューから小さく聞こえた言葉が聞きづらくて、呼び止められたのかと思い振り向くと、銀髪の小さな頭がすぐ目の前にあって。
「ア」
名前を呼ぼうとした俺の肩に手を置いて、どうしたと思った次に頬を掠めていったぬくもり。
「唇じゃなくてもいいなら、俺にも出来そうだ」
おやすみ、ライアン。
微笑んだかのように見えた顔はすぐに見えなくなって、自室へ向かう背中しか見えなくなった。心なしか足取りが軽やかに見える。
「頬でもいい、って言えば良かったのか」
頬から慣れていき、いずれは自分と同じように唇にしてくれる日を待ちわびる。その日が来るかもしれないと思うだけで浮かれる俺は、もうしばらく眠れそうに無い。