Regulus

獅子秘書置き場

happy Christmas time

 クリスマスまであと二日。
 数ヶ月前から訪れているこの国でも聖誕祭ムードがピークになりつつある。イルミネーションやラッピングで賑わう町並みに、どこかワクワクしてしまうのは子どもの頃から変わらない。
 イブと当日は互いに仕事の都合で予定が合わないので、前倒しで時間の取れた今日にそれらしくディナーでもと二人して出かけることにした。少しぐらい空いているかと思っていたが、予約は埋まりかけていて危うく断られかけた所を、時間をずらして何とか席を確保出来た。
 それらしい場所で食事とアルコールを少し。雰囲気と町並みに酔ったのか、それだけでも満足出来た帰り道、アンドリューの携帯に着信があった。
 仕事口調では無い上に、嬉しそうな顔を見れば相手は分かる、きっと星の街の王子様だ。アンドリューが他愛も無い世間話を出来る相手は数少ない。このシーズンはヒーロー業以外の仕事がさぞ忙しいだろうに、時間を見つけて電話をするバーナビーもマメだなと感心する。
 明日やクリスマス当日なら、せっかく一緒にいれる時間に例えバーナビーにでも時間を取られるのは不満を持ってしまう、だからこその今この着信なのだと思うと何も言えない、してやられたと思わざるをえない。
 聞こえないように吐いた微かな溜息は、白い息として冷たい空気にさらわれていった。そんなに電話に夢中になっていると、襲われても文句言えないぞと心中悪態をつきながら、彼の黒いコートに舞い落ちてきた雪の結晶に触れた。

 イブは一日仕事の予定が入っていた途中に出動もあったりで、帰宅したのは日付が変わった深夜だった。
 先日撮ったけど内緒にしていたクリスマス限定のCMの仕事。発売はされないがぜひと頼まれて歌った曲も一緒に使われているから、アンドリューが気付いてくれたら嬉しい。もし見逃していたら、何食わぬ顔をして歌ってメリークリスマスとだけ言えばいい。どちらにしても楽しいなと、夕方から降り出して積もった雪をブーツで踏みながら、深夜でも煌びやかな街を足早に駆け抜けた。
 エントランスを開けて中に入り、温まった室温にほっとして強張っていた肩から力を抜く。
 リビングに入ると、ソファから立ち上がったアンドリューがこちらを向いて「おかえり」を言ってくれる。マフラーを解きながら「ただいま」を言う、ただそれだけのことがすごく幸せに思えるのはクリスマスだからじゃない、アンドリューがいるからだ。
 CMを見てくれたようで、内緒だった仕事はあれだったんですねと納得した表情で言われ、次に少し歌ってみて欲しいとも言われた。俺が歌ってると気付いてくれたのが小さなことかもしれないけれど本当に嬉しかった。
 夕飯を温めなおしてくれるアンドリューをキッチンカウンター越しに見ながら歌う。日付はとっくに変わってしまったけれど、なんて素敵なクリスマスだろう。あまり歌声は聴かないけれど嫌いじゃない、なんて、好きって言ってるようなものだ。俺はそう捉えることにして、最高のクリスマスプレゼントありがとうと返した。