Regulus

獅子秘書置き場

もしも話で20題

01:性別が違ったら

「アンディが女だったら?いい女だなーくらいでスルーしてたかも」考えこむこともなく、さらりと言われた言葉に繕った部分は見当たらず、予想していた彼らしい返答そのもの。試すようなことを聞いて悪かったと謝ると「じゃあ反対に俺が女だったら?」と聞かれ、「きっといい女なんだろうな」と答えた。

 

02:外見が反対だったら
派手な外見でお硬そうな中身だと周りが気味悪がるのではと思うのは、もしも話でも想像しにくいからだ。逆に銀髪のこの男は、この容姿で自身に溢れた気質だと怖いものはないんじゃないかと思うくらいには最強だと俺は思う。「…何」じっと見るこちらを睨み返すこの顔は、性格と合っているからこそいい。

 

03:生まれた世界が違ったら
眩しくて華やかな表舞台が似合う彼と、陽のあたらないような場所が落ち着く自分とでは、生きてる世界が違うなと今でも思ったりする。一緒に過ごす時間が長くなるほど境目は薄れていき、今では陽の光に安心感を抱くようになった。生まれる世界が違ったとしても彼には何処かで出会えるような気すらする。

 

04:あれが嘘だったとしたら
一緒にいると甘えて自立出来なくなるからと、頼むからと言われて一度手を離した。その後連絡は無いけど探そうと思えば見つけられるくらいの情報がちらほらと手元に集まるのは、あの時の本音は別にあったんじゃないかと思い始めている。もうそろそろ、会いに行ってもいいだろうか。

 

05:過去に戻れたら
甘えることに慣れたら二度と一人で立てなくなってしまいそうな危機感に襲われて、相手の優しさにつけこんで離れてもらうよう仕向けたのに、彼を忘れられた日が無い。思い出す彼はいつもこちらを照らすような笑顔で。もしあの日に離れなければ、こんなに胸が締め付けられることも無かっただろうか。

 

06:10年後にも一緒にいられたら
10年後どころかその先も一緒にいる気満々な俺と違って、向こうはどうなのかとふと考えた。お互い何があるか、どうなるか分からないし、そんな先のことまで考えたことがないとあっさり返されるかと覚悟と予想と緊張して聞いてみたら「君と同じだ」だと。そんな嬉しいこと言ってくれるようになるとは。

 

07:次の二択から一つ選ぶとしたら
「このままずっと一緒にいるのと、一度離れた後に二度と離されないのとどっちがいい?」彼から投げられた選択肢の結果はどちらも同じもののように思えて、選ぶ意味があまり無いなと笑い返すと、トータルで一緒に過ごす時間に差が出ると真顔で答えられて、更に笑うと割と真剣だったのか拗ねてしまった。

 

08:今日で世界が終わるとしたら
急に世界が今日で終わると言われてもピンとこないだろう。1日で移動出来る距離は限られるし、何をしたいのかもすぐには決められないまま終わってしまうのが想像出来る。ならいっそ何もせず、大事な人をずっと抱きしめたまま、最後の一瞬まで存在を感じられるってのが自分的には正解だと思う。

 

09:あなたの望みが叶ったら
彼の望みが叶ったら、俺は彼以外を見れなくなるのだろうが、それも決して悪くない。そう思うのは、きっとその望みが俺の願いでもあるからだ。それなのにバツが悪そうに、こんなこと本当は言うはずじゃなかったなんて少し拗ねた顔で話す、年下なのに身長もガタイもいい彼を、少し背伸びして抱きしめた。

 

10:あの約束を今も覚えていてくれるなら
彼の世界がまだ狭かった頃。相手にされてると思ってなかったから、賭けのつもりで誘って、半ば一方的に取り付けた約束。期待はせず、あの時と同じように何気ない雰囲気を装って、外へ連れ出した。流れる星の下で「覚えてたのか」と微笑しながら零した彼の横顔に驚かされたのはこちらの方だ。

 

11:世界で二人だけになってしまったら
この星で、あるいは別の場所で、例えば自分達二人しかいない世界があったとして。彼さえいれば満たされるであろう自分は、寂しいと感じることがないのかもしれない。独りではないなら十分過ぎる。そう思えるほどに抱えた独りの時間が重かったことに気付かされた。

 

12:敵同士(味方同士)だったら
あの戦いで俺達はどちらかといえば敵同士だった。けど相手はどこかで俺のことを利用しようと思っていたなんて聞かされたのと、当時こちらが敵対心を持っていなかったことを踏まえると、実は味方だったんじゃないかとすら思えて、なんだか笑えてしまう。最初から気になる存在だったということだ。

 

13:どちらかが死んでしまったら
危険が伴う職種なのは出会う前から知っていて、一緒に過ごすようになった今、その不安は前よりも大きくなった。それをこちらが口にすることは違う気がして言えないが、覚悟はしていると伝えると、寂しそうな顔で感謝の言葉を言われ、やはりこれを伝えるのも間違っていたのかと自分が恨めしくなった

 

14:立場が逆だったら
もし自分があの立場だったら、きっとあそこまでの時間を費やすことは出来なかった。完璧とはいかなかったけれど、あの計画は彼だからこそ出来たのだ。目的があるとはいえ憎むべき相手の傍にいるなんて、考えただけでもぞっとする。それをするために押し殺した感情を、そろそろ解放してやりたい。

 

15:恐れていることが起こったら
あれだけのことをやっておいて現在の心配といえば「君がいなくなったら」ということくらいしかないから笑い話にもならない。自分から距離を取って近づかせないようにしてたのに、いざ踏み込まれて慣れてしまうとこれだ。恐れてることが少しでも遠ざかるように、慎重にそして楽しく日々を過ごしたい。

 

16:このクイズに答えられたら
俺が今何したいか分かる?そう聞くと、目を丸くしてから細くして悩んで固まってしまった。笑ってさらっと適当に返してくれたらいいのに、この真面目な恋人は真剣に考えてくれる。そんな所ももちろん好きだが、いい加減何か言ってくれないと、抱きしめてキスししようとしてたタイミングを逃してしまう。

 

17:あのとき君がいなかったら
あの時、君の意識が目覚めなければ、いや君があの場にいなければ、俺の計画は完遂出来ていたかもしれない。でもあのまま大人しく気絶していてくれれば、全てがうまくいっていたら、俺は今きっとここには居ないだろう。君が目を覚ましたことこそ、俺にとっての救いだったのかもしれない。

 

18:XXするまで出られない部屋に閉じ込められたら
最近この手のもしも話をよく聞く。今なら手を繋ぐのもキスするのも一瞬だろうしその先だって容易いだろうに、恋人じゃない時なら手を繋ぐのすら苦労しそうだなと想像して思わず口が笑みの形になるが、これが相手を本気で嫌いにならないとというなら絶対に出られないだろうと真顔になる。

 

19:約束してくれるなら
口だけだと、形だけのものだと分かっていても、約束を欲しがるようになって弱くなった。悩む俺に、それは良いことだと何度も彼は笑って宥めてくれるのに、その笑顔すら悪いことをしている気分になってしまう自分自身が約束をすることを許してくれない。いつかそれすら許せるようになったら、その時は。

 

20:いつまでもこのままでいられたら
ずっとこのまま、というわけにはいかないと心のどこかで考えてはいる。いつまでヒーローが出来るのか、出来なくなった時の自分の在り方と彼の在り方、二人の在り方。変化はしても今と似たような関係ではありたいと思うし、その時その時で話し合って決めた形であるなら、それもきっと幸せの在り方。


●もしも話で20題
http://toy.ohuda.com/
お題をお借りしました。

1年365日のお題-3月

01  馬子にも衣装
新しい依頼主と初めて会うのと、その後にパーティーもあると聞いて、俺はもちろんアンドリューにもいつもより着飾ってもらった。こんな格好は君だけでいいという視線と、俺にしか分からないような溜息ばかりついている。元がいいから何着てもどんな髪型でも似合う。でも眼鏡はそのままな。


02  差し入れ
撮影の仕事が長引きそうだと連絡が入り、軽くつまめる夕食を見繕ってスタジオへ向かうと、休憩中のライアンの姿が見えた。俺の姿を見つけて嬉しそうに寄ってくる姿が大きな動物みたいだなと微笑みつつ「終わるまで食べれそうになかったから助かった」と、俺の持つ袋の中身を見て喜んでいた。


03  お人形
綺麗な人形みたいだな。初めてアポロンメディアに行って、あの男と秘書の彼を見た時に思わず口走った言葉。秘書が男、揃いのスーツ、他にも俺の洞察力が見抜いたことは多々あった。皮肉だったと相手も認識していただろうが、純粋な褒め言葉でもあったと伝えたのは随分後の話。


04  その姿、様になってるよ
ジャケットもスーツも着慣れてるからそれ以外の、ラフでカジュアルな感じも見てみたいと、一応断ったもののショップに連れてこられて、さっきから着せ替え人形だ。ライアンがよく行く超高級なところじゃなくて良かったと安心はしたけれど、慣れない服に違和感のオンパレードだ。


05  切り替えできてる?
疲れているのか、煮詰まっているのか。ピリピリした空気をまとったアンドリューが眉間に皺を寄せている。今日の仕事も事件も終了したのに、これではろくに寝に入れないだろう。度数低めのアルコールをグラスに入れて目の前に出すと、ゆっくりと手が伸ばされた。こんな夜もあっていい。


06  解せない、絡まった糸
昨夜はライアンが用意してくれたアルコールを飲んで、そのまま眠ってしまった。シャワーも浴びず服もそのままで寝たからシャツも皺だらけ、更に羽織っていたニットカーディガンの編み目がライアンの服のボタンに絡まっていて、眠れたのは良かったけど寝起きから落ち込んでいる自分がいる。


07  ゴミ箱目掛けて
紙くずをゴミ箱へ投げ入れる。見事に入った一種のゲーム性を持ったそれを見ていた彼は、すごいなとただ感動していた。こういうの入った験しが無いから普通に捨てた方が早いといつからか諦めたらしい。投げて入らなくて周りが汚れるとか、二次被害が起こらないもので試してみたらいい。


08  残り少ないページ
この家に来てからずっとつけている日記ノートが残り少なくなった。買った時は一冊書ききることが出来るか不安だったのに、全部のページが埋まって最初より嵩張ったそれを見ると感慨深い。最初と今では書き方も少し変化しているし、ライアンの出番が増えたのも半分より後の話。


09  今日の夕飯
作ってくれた物は喜んで食べるし、自分が作る時はその時に食べたい物を。メニューに悩んだ時は相手に聞くと、大抵自分が考えてもいなかったものが返ってくるから逆に面白い。さっぱりしてるものが好みかと思えば、肉と言う時もある。色々食べるようになったのは俺の影響なのかもしれない。 


10  公に出来ずとも
この関係を公言せずとも、いつか秘密じゃなくなる時がくる。俺はそれまでこのままでいいと思ってるが、彼は隠すつもりもないし、早くばれた方が俺にとっても気持ち的に楽になるのではという言い分も分かるが、どちらにしても相手が自分であることに後ろめたさを感じることには変わりない。


11  手当てくらいさせてよ
ナイフで切る音が止まった代わりに小さな声がキッチンから聞こえた。やんわりと声をかけたつもりが頑なにこちらを向こうとしない。怒ったりしない、心配してるだけだ。小さな怪我ならそれでいい。ただ絆創膏ぐらいは貼らせて欲しい。もう一度名前を呼ぶとゆっくり指が差し出された。


12  力比べ
腕相撲しようか。する前から結果が見えてる勝負を言い出すなんて何の冗談か、それとも何か罰ゲームでも俺にさせたいのだろうか。勘ぐってしまう視線に気付いてライアンが苦笑いする。「筋トレの成果、試したくない?」知られないように続けていたのに、いつから気付いていたのだろう。


13  見事なり
筋トレをしていることには気付いていた。見た目が変わってきたと分かるぐらいだから、もうそれなりの期間やっているのだろう。一緒に住み始めた頃は体も食も細かったのに、今ではすっかり男らしい。なんて考え事をしてる時はまだ余裕があった。俺からふっかけた勝負、やばい、負けるかも。


14  三倍返し
楽しみにしとけよ、と言い残して出動したライアンの背中を見送る。一ヶ月前に作って渡したチョコのお返しがもらえるらしい。あの日は俺も貰ったから言わば交換、ならば今回も交換した方がいいのでは。同じ物を作っても芸が無い、少しアレンジするだけにしよう。…間に合うだろうか。


15  瞳に映る世界
復讐だけを考えていた頃は目に映る全てが色を失っていて。意識を奪われないように自ら消していたんだ。そんな中でも君は眩しいと感じた記憶がある。今は全てが綺麗だと思えるようになったと聞いて、抱きしめずにはいられなかった。そんな世界を見せてやれたらとずっと願っていたのだから。


16  そんなこと言ってる場合?
他愛もない昔話をしただけで、そんな雰囲気では無かったのに。何でスイッチが入ったのかライアンに抱きしめられて身動きが取れない。夕方といえどまだ陽は沈みきってなくて部屋も明るい。そうだ、今日は夕飯をリクエストされたから今から準備しないとと押しのけようとした手も封じられた。


17  名残惜しい
自分の存在や行動で相手の世界観が変わる。その力があると自覚していても面と向かって言われると、ましてやそれが恋人からとなると、嬉しいを通り越して愛しくて堪らなくなって、抱きしめたら離せなくなった。このまま寝室になだれこみたい勢いなのを我慢して、名残惜しくゆっくり離れた。


18  縁の下の力持ち
表舞台で活躍するライアンのサポートに徹する仕事は向いているし誇りに思っているが、一人の時より自由に動けるのは俺のおかげだと礼を言われて、素直に礼を言い返せば良かったのに、言葉が出てこなかった。感謝することはあっても、されることは無いと勝手に思い込んでいたからだろう。


19  夜の公園
事件の処理が長引いて遅くなった徒歩での帰り道、暗い公園を横切ろうと踏み入ると、人の多い休日や昼とは違う雰囲気に妙に落ち着いた。まだ冷たい風に顔を撫でられて思わず肩をすくめる。たまには落ち着く、けれどやはり完全に気が抜けるのは愛しい恋人達が待つ我が家だけだ。


20  涙声
怪我をしたから手当てをして欲しいと、自分で歩いて帰ってきた割には酷い傷をこちらに向けて笑うから、消毒液でひたひたのコットンを幹部に置いた。相当沁みただろうに叫ばないあたりはさすがヒーローというべきか。もうちょい優しくしてという涙混じりの声が小さく聞こえた。


21  春が来た、って思うと
怪我さえしてなけりゃどこかへ出かけようかという天気で気分もいいのに、今日はちょっと言い出しにくい。手当てさせたこと、まだ怒ってんのかなと様子を伺っていると、モリィのケージを持ち出してどこか出かけるのかと尋ねたら、散歩行きたい天気でしょう?と返ってきた。


22  成績優秀者
秘めた計画を実行するため、あらゆる手段を使えるように知識を叩き込んだ結果、それなりに出来る人間という目で見られるようになったのは成功だった。覚えた知識は今も役立っているし、無駄になったのは復讐に囚われていた時間だけだと自嘲気味に話すと、それも無駄じゃないと諭された。


23  あったか
昼寝でもしたいくらいの心地良い気温の中、冷えるような話題を振ってくるのはアンドリューの癖なのか。復讐に費やしていた時間は無駄だったと話す彼に、あの事件が無ければ今こうして一緒にいる可能性が少なかったのではと言うと「そうかな…」と目を伏せた後に「そうだな」と顔を上げた。


24  どうして私だけ…
父がいなくなった後にどうして自分だけがという思いに取り付かれ、周りのせいにしようとした幼い自分は、そうでもしないと気が狂いそうだった。あの時もう少し大人だったら、なんて今更なことを考える。今とは違う未来があったかもしれないけど、俺はこの未来で良かった。


25  ホットコーヒー
「美味しい」ふと口元を緩めて微かに笑う顔が毎日見れるのは俺の特権だと思ってる。アンディ好みの豆が手に入ったから、いつもは淹れてくれることの方が多いコーヒーを、今日は俺がじっくり時間をかけて用意する。一緒に買ってきた焼き菓子もセットして、リビングのソファへ誘う。


26  渡り鳥の群れ
たくさんの渡り鳥が写ったポストカード。ライアンから送られたものの一つで、今でも大事に保管している。暖かくなってきたから北に向かう、と裏に書かれたカードを見て、本当に世界中を旅しているのだと感動した昔を思い出す。今では俺もすっかり渡り鳥のようだ。


27  言葉って何の為にあるの
思ってることを言葉にするのは苦手だって知ってるから、出来るだけ汲み取ろうとは思ってる。けどそれに甘えて何も言ってくれないのは困る。誰よりも分かってきた自信はあるけどまだまだ情報は足りない。端的でもいい、勝手に組み立てて想像して考えるから、少しでもいいから伝えて欲しい。


28  引き裂かれるような
思ってること全部じゃなくていいけど少しくらいは言葉にして欲しい。そう言われて、ライアンに甘えていた自分に気付いて胸が苦しくなった。負担にならないようにとあれだけ注意していたのに。小さな声で謝ろうとした言葉は途中で遮られ、それは要らないと断られた。


29  灯りのない部屋
月がとても明るい夜は、カーテンを全開にして月光のみの神秘的な部屋の窓際に座る。近くにはいるけど口数少なめに、ただひたすら静かな空間と儚げな光の中で互いにリラックスするこの時間が、俺はもちろん、何回か一緒に過ごす内にアンドリューも気に入ってくれたみたいだ。


30  唄に込める思い
歌の仕事が入り、今回は作詞もして欲しいと依頼されて、さっきからキーボードを打つライアンの指が動いたり止まったりを繰り返している。暫く苦戦した後に手伝ってと言われて、思いついたまま単語を呟く。君を連想させるようなフレーズだということは、メモっている本人には黙っておく。


31  心機一転
明日から新しい仕事も始まるし、髪を切ろうと思い立ってすぐ行動に出た。帰宅した俺を見て恋人が口を開けて驚いていたけど、似合うと言って俺の項に手を伸ばして撫でるから、俺も撫で返す。項が隠れるほど伸びたアンドリューの髪は触り心地が良くてずっと触っていたくなる。


こちらのお題をお借りしています。
http://www.geocities.jp/miayano/odai/365.html

 

1年365日のお題-2月

01  人の夢は儚いの?
人が見る夢は儚いと聞いて、確かにそうかもしれないと自身に突き刺さる。これからに希望を抱いてもそれは勝手な期待でしかない。離すつもりはないと言われているが、人間の気持ちはすぐに逆転するほど脆いものだということも痛いほど分かっているから、心のどこかで信用しきることが怖い。


02  目から鱗が落ちた
機械に疎いわけではないと自覚してる俺よりも、アンドリューの方がより詳しいことが分かってきた。これはプロに修理を頼んだ方がいいだろうと思うものを、一度見てみるからと部屋に入り、数分後に直ったと渡される。機械に強い男はポイント高いと女が言うのが少し分かった気がする。


03  食べ物を粗末にしちゃ駄目
食事中にライアンの電話が鳴った。仕事の話をしているが、どうも楽しげで長引いている。出来立てを食べてもらおうとタイミングを見計らって作ったのに。電話が終わった頃には案の定ほとんど冷めていて、温めなおしますと冷静を装ってキッチンに来たけれど思った以上にがっかりしている。


04  鬼は逃げた?
豆を撒いて鬼を外へ払い、福を内へ呼び込む。昨日オリエンタル地方では節分という行事があったらしい。ジュニアくんから聞かされたそれはいまいちピンとこないけど「あなたの近くに鬼がいたら、惚気ばかり聞かされて豆なんて投げなくてもとっくに逃げてるんじゃないですか」と言われた。


05  あなたの一番怖いもの
夜が怖いと言えば抱きすくめられて眠った時があった。夜がというよりも、眠れずに目が冴えて答えの出ない考えで頭が埋め尽くされて更に眠れなくなり、静けさと暗い視界も相まって心細く感じてしまう。日中にはまず起こらないあの感覚を、彼も同じように感じるのかが知りたい。


06  その言葉を心に刻んで
恋人に言われて嬉しかった言葉は数知れない。駆け引きをほとんどしないアンドリューだから、無意識に放たれた言葉を拾って俺が勝手に喜んでるのが常だけど、たまにそれらをまとめて心の中でリピートすると幸せな気分になるからお手軽だし、俺もそんな言葉を贈れていたらいいなと願う。


07  すっごい殺し文句
ライアンの新しいCMの殺し文句がすごいと話題になっているらしい。その撮影には同行したしCMも何度も見ているけれど、俺には殺し文句とは思えない。女性と男性では捉え方が違うのだろうかと思っていたが、毎日一緒に居て言われ慣れているのだと気付いた時、顔から火が出そうになった。


08  転んだことにも気付かない
朝弱そうな顔をしているアンドリューは意外ときっちり起きてくる。が、たまにものすごく寝起きの悪い朝がある。ほとんど寝てる状態で廊下の壁にもたれながら歩いてきて何もないところで躓いたりするけど本人は気付いていない。家の中で俺がいるからと気が緩んでるだけなら嬉しい事だけど。


09  正義の味方だ!
ヒーローが皆同じ正義のもとに動いてるわけではないけれど、ライアンはどうなんだろう、そういえば聞いたことがない。彼がヒーローを始めた理由・続けている理由をきちんと知りたい。今更かもしれないけれど、今だからこそ聞きたいこともある。他人に興味がわく瞬間を体感した。


10  リズム
寝る時間、起きる時間、食事の時間、風呂の時間。最初は全部がバラバラだったそれらが擦り寄っていき、今では同じようなリズムになってきたことに改めて喜びを感じる。唯一多少のズレがある就寝時間は、一緒に寝ることを提案してみたけれど、まだ首を縦に振ってはくれない。


11  君を動物に例えると
彼を動物に例えるなら、自他共に認める獅子以外は思いつかない。髪型は鬣を意識してるように見えるし、能力発動の体勢も心なしかそう見える。どちらも確認したことは無いから本人はそんなつもりじゃないかもしれないが、ライアンがモリィじゃなくて獅子を飼っていたとしてもしっくりくる。


12  ハンカチーフ
彼が持ってるハンカチはいつも角がきちんと重ねられていて、性格を表しているようだ。今まで使ったことがない家のアイロンが使われていると思うと嬉しくなる。アイロンと同じく使っていなかったものが恋人によって日の目を見るようになったものが多くて、一人の生活との違いを感じた。


13  思いを込めて
期待はされていないと思いつつも、その予想を裏切って渡した時の反応が見てみたい。数日前から計画して、後は今日ライアンが帰ってくるまでに作ってラッピングまで完成して部屋に持ち込めば、明日渡すまでバレることはない。そのためには調理を一発で成功させなければならないのが不安だ。


14  チョコレート乱舞!
チョコレートなんて貰えるはずがないし、今日が何の日かだって分かっていないかもしれないから、俺からだけでもたくさんの気持ちとチョコを贈りたい。なんてさっきまでは思っていた。帰宅すると予想外に甘い匂いが充満していて、俺の顔を見るなり「間に合わなかった…」と肩を落とされた。


15  コゲてない目玉焼き
昨日は結局ライアンが帰ってくるまでに完成させることは出来なかったが、長時間キッチンにいたせいか、今朝のたまご焼きは自分でも驚くくらい綺麗に出来た。ライアンも驚いてたくらいだ。チョコを作ってたまご焼きがうまくなるなんて、どこで何が繋がって成果になるか分からないものだ。


16  経験を糧にして
バレンタインから数日アンドリューの料理の手つきが良くなった。あの日どれだけキッチンで試行錯誤していたのか聞いてないけど、糧になってるなと周りから見て感じるのだから、本人も気付いているだろう。昨日のたまご焼きには驚いた、そして美味しかった。油断したらすぐに抜かれそうだ。


17  寒さの中で
外で待ち合わせをして一緒に帰るのは久しぶりだ。日が落ちて暗くなり、近くの売店の明かりに誘われるように歩いて、缶コーヒーを一本買った。悴んだ手をしばらく温めてから、開けてゆっくりと口元へ運ぶ。寒い中で温かいものを飲むと、いつもより味わえるようでたまにはいい。


18  コンビニエンス
時間より少し遅れて待ち合わせ場所へ向かうと、缶コーヒー片手に立つ姿すら絵になってて、声をかけられてないのが不思議で仕方ない。自分なら見つけた瞬間に声をかけるに違いない、なんて既に口説き済の恋人に近づいて一口欲しいとねだると、残念もう空だと笑われた。


19  何か恵んでください
待ってる間に飲み終えてしまったコーヒーの缶を捨てると、一口もらえなかったし代わりが欲しいと言われ、ポケットから先ほど街で配っていたキャンディを良い物があったと差し出す。そういう子どもっぽいものじゃなくてキスとかもらうつもりだったと残念がるライアンの頬をつねってやった。


20  北斗七星
つねられた頬が痛いなとアンドリューを見ると、自業自得だと笑って返された、北斗七星を目印にして二人並んで家へと歩く道。冷たい風が肌に刺さるようだと今度は違う文句を言ってみる。コーヒーで少し温まっていた片手をそっと伸ばされ、その手を離したくなくて、自分のポケットに誘った。


21  体温計
あまり見たくないものが目の前に突きつけられている。体温計だ。体調を崩したと認めたくないのに、計るまで動かないとライアンが隣にいるものだから仕方なく検温した。そこまで高くはないが平熱から考えたら発熱している。昨夜の帰り道は自分的にそんなに冷えた感覚はしなかったのに。


22  半信半疑
昨日から熱を出してるアンドリューが気になっている。同じ部屋にいるとうつるからと最低限しか入室させてくれない。せめて一日数回は検温しろと体温計を渡したけど、表示画面を見せてくれないまま、もう下がったと何度も言われた。怪しい。次言われたら、計るまで横にいてやる。


23  虹の色は何色?
熱は下がったと言ったのに信用してくれないライアンが傍で看病してくれて気がつけば朝だった。うつるからと出来るだけ部屋に入れないようにしてたのにこれでは意味が無い。今更言ってもどうしようもないと諦め、眩しそうな世界を遮るカーテンをそっと開けると七色の橋が空にかかっていた。


24  どうあがいても相容れない
仕事上ならともかくプライベートとなると口も利かない。端から見たら正反対の性格に見えるのだろう。そんないくつもの予想を裏切るように俺達は恋人になっている。相容れないというのは勝手な憶測で、意外と正反対だから惹かれあうものだってある。きっと俺はアンディの能力に引かれたんだ


25  思いやりか同情か
迎えにきてくれた時は申し訳ないくらい信用出来なかったけれど、今でも時々不安にはなる。何も知らない俺のことを傍に置くと決めたのは何故か。あの時まだライアンは試すぐらいの気持ちだったのでは。憐れみだとしても受け入れようとその手を取った俺の考えは間違っていたと今なら分かる。


26  君が描いた僕の顔
同情で迎えにきたのかと言われた時、相手から見た俺の顔はさぞ酷い人間に描かれているようで、見てわかるほどに肩を落とした。気持ちを伝えたつもりだったのに、肝心なとこは何も伝わっていなかった。そんな経験が無かっただけに自分の実力を疑った、そして絶対に後悔させないと誓った。


27  理想を追い求めて
大きなことを言えば、ライアンから自立したいという気持ちはある。いつまでも甘えるように傍にいても、お互いのためにならない。けどライアンが俺を手放してくれそうにないという予想も自惚れではなく出来る今では、離れてもためにならないのでは、ということも納得出来るようになった。


28  1年365日
365日プラス一日多い、それが明日。意識したことはあまり無かったけど、ふと特別な日のような気がした。いつもより多いのなら、あえて普段出来ないことをやってみるのもいい。例えばアンドリューを一日ベッドから出さないで甘やかすとか、一日モリィの温室で過ごさせる、のがいいか。


29  4年に一度
四年に一度だからって今日は平日だ。カレンダー通りでいけば仕事もあるし家事もある。昨夜からやたら上機嫌のライアンに朝起きてそのまま温室に連れてこられ、今日はここでリラックスして過ごして欲しい、と言われた。君の傍の方が落ち着くと言ったら喜ぶだろうか。


こちらのお題をお借りしています。
http://www.geocities.jp/miayano/odai/365.html

 

1年365日のお題-1月

01  今年の抱負、いってみましょう!
やり残したことは無いと年が明ける前に聞いたから、今度は「今年やりたいこと」だ。つい数日前に同じような質問をされたとアンドリューは苦笑いするが、どんな小さなことでも、やりたいことが無いなら抱負でもいい、明日や未来にワクワクして生きて欲しい。それが俺の今年の抱負でもある。


02  初夢
今朝見た夢で今年の運勢が占えるとバーナビーさんに電話で聞いて、思わずライアンの顔を見てしまった。穏やかな日常が続いてるような夢の中の彼はいつも通りで、目覚めの良い夢は久しぶりだ。君が出てきたと言ったら喜ぶのが目に見えているから、何の夢を見たか先に聞いてから考えよう。


03  だって人間だもの
アンドリューが嬉しそうに話す時は大抵バーナビー絡みの時が多い。俺のことは疑うくせに、彼の言うことなら間違いないと端から信用しきっている。俺は無機質な機械じゃないし、人間だから嫉妬だってする。たまにでもいいから俺に信頼しきった笑顔を向けて欲しいと思うんだ。


04  小説のタイトル
何十通と送られた手紙に、数回だけ返事を書いたことがある。まさかそれをライアンが今も持ってるなんて思っていなかった。小説のタイトルみたいな単語とか並んでて、手紙か報告書か詩か、理解するまで時間かかったんだぜと笑うライアンの手元のそれに頭を抱えて破り捨てたくなった。


05  どっかで聞いた、その台詞
アンドリューに送った手紙の返事を今でも持ってると言ったら、破って欲しそうな目で見られて「捨ててください」と言われた。初めて返事をもらった後の面会でも同じことを言われたなと思い出して笑うと、誤解されたのか更に目が鋭くなった。アンタ絡みのものを俺が容易く手放すはずがない。


06  白く埋めつくす
寒波が来ると覚悟はしていたが予想以上だった。白く埋め尽くされた街は確認しなくても交通網が麻痺していると分かる。幸い今日はオフだし食料もあるから外に行く必要も無い。クリスマスに小さくしか作れなかった雪だるまは、今日ならライアンが起きるまでにそれなりのものが作れそうだ。


07  ついこの間片付けたはずなのに
揃いで買ったマグカップ。割れると嫌なのでと使うのを拒否られて片付けられたそれが、なぜかカウンターの上にある。気でも変わったのか尋ねようとしたら「何か飲みますか?」と先に聞かれたのでアンディと同じのでと言うと目の前のカップに注ぎはじめた。何にせよ使ってもらえるならいい。


08  歪められた結果
揃いでマグカップを買おうと提案されて、断ることが出来なかった。どちらかが割れて欠けると不安で本当は要らなかったけど、「アンタはこっち」と渡された銀ではなく、金のカップを自分が使うならいいかと勝手に妥協して、銀はライアンに使わせるべくコーヒーを淹れて無言で差し出した。


09  気にしすぎじゃない?
外でキスはもちろん、手を繋ぐどころか一緒に外食も、並んで歩くのすら嫌がられた時期がある。気にしすぎだしバレても俺は困らないし、アンドリューの心配してることにはならないしさせないと言っても、もちろん納得はしてくれなかった。今はそれほど周りの目が気にならなくなったようだ。


10  雪遊びといえば
雪が積もることが多くなったある日のこと。公園でソリ遊びをしている小さな子ども達にライアンが混じっていった。借りた小さなソリに大きな身体を乗せて、小高いところから滑っている姿が楽しそうで、俺もと誘われたけれどスーツだからと断ってしまったことを少し後悔した。 


11  暖かいところに行きたい…
寒い朝、珍しく起きてこないアンドリューの様子を見に行くと、頭まで毛布を被って姿は1ミリも見えなかった。鼻まで毛布を下げて熱が無いか体調が悪くないかを確認する中「…暖かいところに行きたい」と呟いてまた寝てしまった。寒くて布団から出られないだけなら、しばらく放っておくか。


12  カレンダー
カレンダーに大きな赤い花丸を書くのはやめて欲しい。何度か言ったのにライアンは聞き入れてくれない。来客なんて滅多に無いし、住んでる人間以外に見られることなんてほぼ無いけど、それでも毎回壁にかけてあるそれと向き合う度に顔が熱くなる。デート、なんて書かないで欲しいのに。


13  物が溢れる時代
物が溢れる時代、既に手元にあったことも多くて、あれこれ欲しいとあまり欲しがることは無かった。欲しいものは自分で手に入れる、そう出来るような生き方を選んだのもあるけれど、強く欲しいと願うものは物に限らないんだってアンドリューと出会った時に思い知った。


14  失言
失言をした一瞬後に後悔するのをやめたいと思ったのはこれで何度目だろう。どうして言う前に気付かないのか自分に腹が立つ。感情的に怒らないライアンだから余計に居た堪れなくなる。傷つけたと分かっているのに、その後のフォローがいつまでたってもうまくならない。


15  大人と子供の境界線
子どもから大人になった時を覚えているか。実感した頃にはとっくに大人だった気もするし、その瞬間を思い出せないのならまだ子どものままなのかもしれない。俺自身の答えが無いままアンドリューに問いかけると、父親がいなくなったあたりかなと返され、境界線が見える人間もいると知った。


16  既に死語
普段話している時に今では死語になっている言葉を指摘されることがある。隔離されたような世界にいた期間があったからそれも仕方ないと思っても、自分だけ時間が止まったままのような錯覚に陥る。ライアンはきっとそういう流れに敏感で適応力も高いんだろうとじっと見つめると照れられた。


17  試してみる?
飲むなら家にしようと提案して良かったと、酔った姿を久しぶりに見て心底思った。いつもより柔らな視線と楽しそうな口元から機嫌がいいのが伺える。色っぽいのに何故かいつもより男前に見えると伝えると、試してみるか、と言って片手を取られて立ち上がる。俺なんかヤバイこと言ったかも。


18  凍ったドア
寒波到来の国でドアや水道管が凍るニュースを部屋で見て、こんな時に星の街の炎を操る社長は忙しいのかもしれないな、なんてライアンが言うからつい想像してしまった。出動しているかもしれない人物を思い出し、こんな寒い時まで大変だと思いながら、横にいる薄着のヒーローを見やる。


19  人生の必勝法
雑誌のインタビューで聞かれた「人生の必勝法」。周りから見れば俺は成功した人間に見えるんだろう。ヒーロー業は順調、それ以外の仕事もそれなりにあるし、家に帰れば愛しのハニーが二人もいる。現状に不満は無いが、これからも野望を捨てたくは無いから、満足はしないようにしてる。


20  岐路
振り返れば人生の岐路はたくさんあった。父が亡くなった、ヴィルギルを名乗るようになった、秘書になった、ライアンと出会った、…復讐に失敗した。どれ一つ欠けても今と同じにはなっていなかったと思うと面白いとさえ感じるようになったのは、隣にいてくれる彼のおかげかもしれない。


21  え、こんなに高いの?
以前プレゼントしたアウターの値段を知ったアンドリューが絶句している。こんなに高いものを、と消え入るような声で言うから、似合うと思ったからだし値段で左右されるような選び方はしないと伝えると、さすがだと返された。それ以来アウターの手入れを小まめにする姿が目立った。


22  風邪にご用心
逞しい身体が咳をするたびに痛そうに跳ねている。風邪かと聞いても、多分違うと言ってなかなか認めない。いつまでも濡れた髪のままでいないでドライヤーをしろとあれほど言っているのに、習慣が無いのかあまり好きじゃないのか、俺にやってもらいたいのか自分ではしようとしない。


23  人真似猿真似
アンドリューの入所後に同じような事件が何件かあったことを本人は知っているだろうか。復讐という点では同じでも、彼ほどの計画を企てる頭脳の人間はいなかった。それだけ彼の想いは深く費やした時間は長い。知らないならそれでいい、彼は今穏やかな時間を過ごそうとしているのだから。


24  冬の日差し
厚い灰色の雲で覆われて寒さが続いている。どんよりとした空を見ていると、なぜだか気分まで滅入るのは気のせいか、それとも因果関係があるのだろうか。雨や雪も嫌いではないけれど、たまには眩しい太陽が見たい。ベランダから差し込む日差しで日光浴がしたいと思った。


25  旧友と再会して
まだヒーローになる前、生まれ育った町で友達だった奴に偶然再会した。向こうはずっと俺を見ててくれていたらしいが、残念ながら俺は相手の当時の顔すら思い出せない。それでも話してる中で悪い人間では無いことを思い出す。「頑張れよ、また会えたらいいな」なんて心地のいい台詞だろう。


26  見覚えのある人
賑やかなモールの中心で華やかなステージの中に似ている人を見かけて、踊りの上手な彼女を思い出す。おそらく自分よりも先に外へと出ているはずだ。同志だったとはいえ巻き込んでしまったかもしれない彼女が幸せになってくれればいいと願った。よく心配してくれた俺は今、幸せだから。


27  誰もが信じるおとぎの国
誰もがこどもの頃に一度は憧れたおとぎの国。いつか行けるはずと期待で胸を膨らませていた日々を思い出して、我ながら幼さに微笑ましくなる。成長するにつれ夢より現実の割合が増えて希望が小さくなっていくけれど、今はこども達の胸をいっぱいに出来るような自分を俺は気に入ってる。


28  イエローカード
外での過剰なスキンシップは禁止だと最初に決めた約束の一つ。それは一緒に住むために必要だと二人で決めたことなのに、不意打ちに外でキスされて、人の目やモラルや立場だとか言いたいことはたくさんあるが色々ひっくるめて警告をしたら、思いのほか効果覿面で帰るまで元気が無かった。


29  生命線
じっと俺の掌を見てどうしたと思ったら「君は長生きする」とすごい真面目な顔で言われて、やっと手相を見られていたことに気付いた。そっちはどうなのよと手首を握ろうとしたら振り払われて「君ほどじゃない」と避けられる。どちらが先に、それよりもその瞬間に傍にいることが出来たなら。


30  古い自転車
街の店先に止めてある使い古された自転車を見て、小さい頃に乗っていたものを思い出す。遠慮して欲しいと言えない俺に気付いた父がプレゼントしてくれたそれがとても嬉しくて、大事に何年も乗っていた。あちこち修理をして見た目は古くなっていっても自分には何よりの宝物だった。


31  陽だまりの中でまどろむ様に
寝室のカーテンを開けて外からの日差しがあたるベッドの上で二度寝しているアンドリューを見て、渡そうとしていたカップを近くの机へ置いた。カーテンを開ける動作で力尽きたような格好に声を出して笑いたくなるが、気持ちよさそうにまどろむ姿に、ずれた毛布を肩までかけなおす。

 

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1年365日のお題-12月

01  ラストスパート!
撮影の仕事終わりに出動が入り更にもう一件。見上げると空が白んでいた。今からだと見れるのは寝顔か起き抜けの顔か。ヒーロー業の最中でもアンドリューのことを考えてると知られたら、きっと彼は怒るだろう。そんな顔を想像しながら、仕事に行く彼を見送るためにラストスパートをかけた。


02  だらしのない
朝方に帰宅したライアンと玄関で鉢合わせた。出勤前のため珈琲を入れてやる時間は無いが「お疲れ様でした」と労いの言葉をかけると、少し疲れた表情だったのがみるみるとだらしのない顔になり、間に合って良かったと抱きしめられた。近くで聞こえた「行ってらっしゃい」に耳が熱くなる。


03  金
シャワーを浴びた俺の濡れた髪を放っておけないアンドリューが手荒く拭いてくれる。やっぱり金が似合うとアンドリューに言われ、カラー?それともマネー?と問うと少し間を置いて、どちらもかな…と返ってきた。もう一つ、銀髪のアンタと対みたいで気に入ってるという理由は秘密にした。


04  舞い散る羽
撮影の仕事の付き添いでスタジオに入ってしばらく経った頃、被写体であるライアンに合図がかけられると同時に降ってきたのは雪では無く、ふわふわと舞い散る白い羽だった。その中に佇む彼があまりにも絵になるので見惚れていたのだろう、ライアンがこちらを一瞬見て小さく笑った。


05  たまには寄り道も
朝早くから日付が変わるまで、移動と予定が忙しなく詰まっていた一日。ずっと付き添ってくれたアンドリューと帰り道のハイウェイドライブもいいが、こんな時こそと思い、一つ手前の出口で降りて、ほぼ貸切の人気の夜景スポットへ。たまには寄り道もいいですねと、微笑む横顔に癒される。


06  クイズ!
今日は何の日か知ってるかと聞かれ、脳内を一周してみたが思い当たらず分からない。ライアンはよくこうしてクイズを出してくるが、その答えのほとんどが俺の知らないことばかり。新しい知識を植えつけるのが楽しいのか、知らないと答えるとライアンが嬉しそうに話す姿は、見ていて楽しい。


07  命の重さ
全てをかけて復讐をしようとした決意は相当なものだと理解はしてるつもりだが、アンドリューは命の重さを、自分の命を軽んじている所がある。俺も自分と同等か、それ以上にアンドリューが大事だと思ってはいるが自己犠牲をしたいわけじゃない。生きたいと望むようになってくれればと思う。


08  朝だからと言い訳して
朝は大体決まった時間に起きてくるライアンが今日は遅い。オフだし放っておこうかと思ったが、一緒に食事出来る時は一緒に、と言われていたのを思い出して、寝室に入り肩を揺すると、のそりと伸びた手に抱きくるめられる。寒い朝だからと言い訳して、しばらく温かい時間を分けてもらった。


09  終わりのないものなんてない
終わりのないものなんてないと悲しいことを言われた。思いつめた結果だけを報告されることはままある。多少気持ちの波はあるかもしれないが、アンドリューを手放そうなんて思ったことは無い。必ずしも終わりが別れでは無いことを、どう伝えれば彼は解ってくれるだろうか。


10  自然の脅威
やたらと冷える夜だったなと、寒さにいつもより早く目覚めてカーテンを開けて言葉を失った。いつも見える景色がほぼ真っ白、空も白くて、よく見ないと街と空の境目も見辛いほど。先に起きたライアンの置き手紙をキッチンカウンターに見つけて、この雪で明け方から出動したことを知った。


11  飲み込みの早い人
料理も菓子も酒の作り方も、一通り教えると次からは大体出来るようになる飲み込みの早いアンドリューを見てると、あれこれ教えたくなる欲がわいてくる。基本さえ教えれば後はレシピを渡せば一人でもやってくれそうだなと、自分でも作ったことのないメニューをリクエストする事が増えた。


12  漢字
オリエンタルタウンに戻って休暇中のタイガーさんから、珍しくポストカードが届いた。そこには読めない文字がならんでいて、難しそうだと眉を寄せていると横からひょいと取り上げられる。「へー、これが漢字ってやつか」読めるのかと聞こうとしたら、すぐに電子辞書を開いたので口を噤んだ。


13  新たな発見
例えば新しい葉を買ってきて紅茶を淹れた時に、少し目を見開くと好み、少し目が細くなるとあまり好みじゃない、と反応で好き嫌いが分かるようになったのが新たな発見。アンドリューはいつだって不味いとは決して言わないけれど、注意して見てると結構分かりやすいってことも解ってきた。


14  全員集合!
シュテルンビルトでの仕事が入り、バーナビーさん達と事前に連絡を取ることにした。時差を考えて電話をするとヒーローが集まっていて、小さなモニターに次から次に人が入れ替わり、順番に話しているライアンが楽しそうで覗きこむと、少し映ってしまったみたいで話題が一気に俺になった。


15  自由と言う名の不自由
SBのヒーロー達との賑やかな電話を切った後、一人でするヒーローは寂しいかとアンドリューに聞かれ、コンビの経験は悪くなかったけど自由で不自由でもあるかな、今はサポートしてくれるパートナーがいるから何の心配も寂しくも無いと笑うと、目に見えて肩が下がるのが分かった。


16  一組の手袋
寒さから守るためにしていただけなのに「手袋してるアンディの手もいいな。素材も似合うし、チラっと見える手首の肌色とかいい」と言っているのを聞き流し、そういえばライアンは手袋を持ってなさそうだから、今年のクリスマスプレゼントはこれにしようかと思いついた。


17  抱擁
重ね着をしても寒そうにしているアンドリューを抱きしめたら少しぐらい温まるだろうか。かといっていきなり抱きつくのもあれだし、理由を言っても半目で見られそうだし、と躊躇っていると「君から暖を取るのが手っ取り早いか」と自ら言い出したので遠慮なく抱きしめた。


18  誰もいない、私だけの世界
前は良くも悪くも自分だけの世界の中で生きていた気がする。たまに昔のことを零すと、興味があるのかライアンは傍に寄ってきてゆっくりと話の続きを聞いてくれる。今ではそんな世界は夢でしか見ないと言うと「そこに早く俺が登場すればいいな」なんて言うもんだから、待ってるよと返した。


19  均一セール
遅くなった帰りに近所のカフェがまだ開いていたので寄ってみると、作りすぎてしまってね…と困り顔の店主の前には多くの種類のドーナツが。どれも美味しそうだが、この時間からだと売り切るのは難しいだろう。今夜と明日の朝食分、アンディの好きな紅茶も一緒に買って、礼を背に店を出た。


20  幻に惑わされ
ハガキや写真を送ってくれて、時には面会にも来ていたライアンは自分に好意があるのかもしれない、という勝手な希望で完成した幻を見る度に、期待した分だけダメージを受けるのは自分だと、そんなはずはないと否定していたのに、出所の日に目の前に現れた彼は幻では無かった。


21  静寂
静かな夜に、ふとアンドリューを迎えに行った日を思い出す。どんな反応をするか楽しみと不安が入り混じり、いつも通りに振舞えていたかは分からないが、自分が想像する俺以上に変な顔になっていた相手がいた。震えながらの「幻じゃないのか」の一言が忘れられない。


22  どんな卑怯な手を使っても
目的のためなら手段は厭わなかった。計算し尽して立てた計画は完璧だと思っていたのに綻び、結局失敗に終わってしまったけれど。そのおかげで今があることには感謝しているし、ライアンにはどれだけありがとうを言っても言い足りないから、毎日少しずつでも感謝を返していくことに決めた。


23  雪の結晶
黒いコートに舞い落ちた結晶の形が見える雪。そっと触れるとすぐに溶けてしまったそれを本人は見ることもなく、星の街の王子様との電話に夢中で気付きもしない。明日や明後日だったら邪魔するなと電話を奪うかもしれないけど、そうさせない為に向こうも今日を選んだと思うと何も言えない。


24  全ての恋人達に贈る
そのうち分かる、と内緒にされていた仕事内容をついさっき家で知った。ニュースを見ようとつけたテレビのCM、「全ての恋人達に贈る」のコンセプトで流れている曲も彼自身が歌っている。普段あまり聞かない歌声も悪くない、帰ってきたら少しだけ歌ってと強請ってみようか。


25  雪だるまを並べ
日付が変わって帰宅した昨夜、薄くつもった雪でなんとか作ったサイズの雪だるまがベランダに並んでいて和んだ。CMを見てくれたのか少しでいいから歌ってみて欲しいと言われ、予想してなかった願いにクリスマスプレゼントかなと喜んでいたら、プレゼントは別に用意されていた。


26  冬といえば鍋
クリスマスらしいディナーは用意出来なかった今年、余裕のある今日に時間をかけて鍋を作った。鍋と言っても教えてもらったオリエンタル風ではなく、ライアンの好みそうな魚介スープに具材を入れて、締めはリゾットに。星の街のお二人も、こんな寒い日は鍋を囲んでいるのだろうか。


27  薄氷の上を歩くように
ヒーローという職業は危険と隣り合わせ。薄氷の上を歩くようなことだと分かっていても進まなきゃいけない時もある。恐怖心が先に立つ時に思い浮かべるのは、帰るべき場所、人の顔だ。最近銀髪が少し伸びて益々色気が出てきた恋人の顔を脳裏に焼き付けて、重たい一歩を踏み出す。


28  やり残した事
今年やり残したことがあったら教えてと言われ、結構時間をかけて考えたけれど何も出てこない。ライアンが次々と新しい体験をさせてくれるから、あれこれやりたいなんて欲が出てくる暇もない、いつもありがとうと正直に伝えると「…おう」と言って顔を赤くして俯いてしまった。


29  お疲れ様でした!
ライアンが午前中から掃除をしている。特に汚れているわけでもないが、形だけでもした方が気持ちよく新年を迎えられるだろ?とのこと。普段やらない事が楽しいのか日が暮れるまで没頭して、満足げな顔でソファへ座った所へココアの入ったマグカップを差し出す。お疲れ様でした。


30  来年もよろしくね。
同じ国に一年と滞在することがまず無いから、時間も季節もあっと言う間に流れていく感覚がある。新年を迎える場所が毎回違うので落ち着かなくてごめんなと言うと「場所なんて関係ありませんし、来年もその先もよろしくお願いします」と、とても自然な笑顔で、俺が言いたい台詞を言われた。


31  コンプリート
俺ばかり表情が乏しいみたいに言われるけれど、感情豊かなライアンの前では敵うはずがない。もっといろんな表情を引き出したいし、それが出来るのが自分だったらいいなと言うが、俺だって同感だ。コンプリートは不可能でも、自分しか知らない相手の、特に嬉しい顔がこれからも増えればいい。

 

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happy Christmas time

 クリスマスまであと二日。
 数ヶ月前から訪れているこの国でも聖誕祭ムードがピークになりつつある。イルミネーションやラッピングで賑わう町並みに、どこかワクワクしてしまうのは子どもの頃から変わらない。
 イブと当日は互いに仕事の都合で予定が合わないので、前倒しで時間の取れた今日にそれらしくディナーでもと二人して出かけることにした。少しぐらい空いているかと思っていたが、予約は埋まりかけていて危うく断られかけた所を、時間をずらして何とか席を確保出来た。
 それらしい場所で食事とアルコールを少し。雰囲気と町並みに酔ったのか、それだけでも満足出来た帰り道、アンドリューの携帯に着信があった。
 仕事口調では無い上に、嬉しそうな顔を見れば相手は分かる、きっと星の街の王子様だ。アンドリューが他愛も無い世間話を出来る相手は数少ない。このシーズンはヒーロー業以外の仕事がさぞ忙しいだろうに、時間を見つけて電話をするバーナビーもマメだなと感心する。
 明日やクリスマス当日なら、せっかく一緒にいれる時間に例えバーナビーにでも時間を取られるのは不満を持ってしまう、だからこその今この着信なのだと思うと何も言えない、してやられたと思わざるをえない。
 聞こえないように吐いた微かな溜息は、白い息として冷たい空気にさらわれていった。そんなに電話に夢中になっていると、襲われても文句言えないぞと心中悪態をつきながら、彼の黒いコートに舞い落ちてきた雪の結晶に触れた。

 イブは一日仕事の予定が入っていた途中に出動もあったりで、帰宅したのは日付が変わった深夜だった。
 先日撮ったけど内緒にしていたクリスマス限定のCMの仕事。発売はされないがぜひと頼まれて歌った曲も一緒に使われているから、アンドリューが気付いてくれたら嬉しい。もし見逃していたら、何食わぬ顔をして歌ってメリークリスマスとだけ言えばいい。どちらにしても楽しいなと、夕方から降り出して積もった雪をブーツで踏みながら、深夜でも煌びやかな街を足早に駆け抜けた。
 エントランスを開けて中に入り、温まった室温にほっとして強張っていた肩から力を抜く。
 リビングに入ると、ソファから立ち上がったアンドリューがこちらを向いて「おかえり」を言ってくれる。マフラーを解きながら「ただいま」を言う、ただそれだけのことがすごく幸せに思えるのはクリスマスだからじゃない、アンドリューがいるからだ。
 CMを見てくれたようで、内緒だった仕事はあれだったんですねと納得した表情で言われ、次に少し歌ってみて欲しいとも言われた。俺が歌ってると気付いてくれたのが小さなことかもしれないけれど本当に嬉しかった。
 夕飯を温めなおしてくれるアンドリューをキッチンカウンター越しに見ながら歌う。日付はとっくに変わってしまったけれど、なんて素敵なクリスマスだろう。あまり歌声は聴かないけれど嫌いじゃない、なんて、好きって言ってるようなものだ。俺はそう捉えることにして、最高のクリスマスプレゼントありがとうと返した。

 

1年365日のお題-11月

01  可愛い我侭
昨日は結局大きめのカボチャを用意するだけで終わってしまった。てっきり仮装するかと予想してたから残念、見たかったなと言われたら、アンドリューに色々着せたかったなんてことを言うには気が削がれてしまった。来年はちゃんと仮装の用意をして、今年よりも楽しもう。


02  隠し事はしないで
何でも話してほしいと常々言われるのに、隠し事をされるのは納得がいかない。仕事かそれ以外か、口数の少ないライアンに何かあったのかはおそらく間違いないだろう。近くにいても無視されているかのように意識が遮断されている。居心地が悪くて無理矢理目線を合わせると緑の瞳が見開かれた。


03  それは秘密
アンドリューの機嫌が良い。悪い時もなるべく内に潜めるタイプだから、端から見て分かるぐらいなのは珍しい。「何かあった?」探るのではなく、単なる興味心だと分かるように軽く声をかける。微かに揺れた肩に後悔を覚えた直後、振り向いた彼は嬉しそうな瞳と口元で、秘密ですと言った。


04  歓喜
通話を切った途端、ライアンが拳を握って歓喜の声をあげた。やってみたかった仕事が入ったと嬉しそうな顔で言われて思わずこちらまで顔が綻ぶ。お祝いでもしようかと提案すると、あまり時間が無いからすぐに用意してシュテルンビルトに行くと言われて、分かるように説明して欲しいと思った。


05  疑似家族
俺とモリィとアンドリューと。モリィだけの時よりも家族のような形に近づいたと感じているのは自分だけだろうか。家族のようで家族ではないこの関係に、微かな不安を抱いているのは自覚している。いつか俺の望む形の家族になりたいと伝えた時、彼はなんと返すだろうか。


06  邪険にされても
邪険にするようなことをしてしまっただろうか。ライアンの態度がどこか変だ。気のせいと思えるほど微かな距離があるのが分かる。ここ数日のやりとりで言い過ぎたこともない、と思う。とすれば、記念日だかのサプライズを考えているのだろうと、勝手に納得して放っておくことにした。


07  めぐりあい
めぐりあった記念日に食事でもと誘おうとして気付いた。俺とアンドリューの出会いとは一体いつだろう。ヴィルギルとして契約書を持ってきた日か、アンドリューとして出所した日か。聞いても「どちらでも構いません」と返ってくるだろうし、折角だから両方で祝うことにした。


08  切断面
野菜の切断面をカウンター越しにライアンがじっと見つめている。何か?と聞いても返事はない。事前に伝えたメニューが気にいらないのか、はたまた嫌いな野菜が入っていないかチェックしているのか。まさか子どもでもあるまいし、と思ったところで、もう少し小さく切って欲しいと言われた。


09  いわゆる川の字ってヤツ
今日はモリィも一緒に寝ようと言われ、彼女には申し訳ないが慣れたといっても触るのに緊張しなくなった程度で、寝てる時に触れたり舐められたりしたら青白く光ってしまうかもしれない。モリィを真ん中に川の字で、と言う提案に、君が真ん中ならいいと返すと、なぜかライアンが喜んだ。


10  人は悩んで大きくなるの
俺のアルバムを見たアンドリューが、昔から大柄というわけでもないのにどうしてこんなに成長出来たんですかと聞くので、人は悩んで大きくなるんだぜ?と半分冗談のつもりで返したら、それなら自分もそれなりに成長してもいいはずと言わんばかりに、笑うような悩むような複雑な顔をされた。


11  ゾロ目
1が4つ並ぶ今日、なぜかライアンがケーキを買ってきた。特別に何があるとか記念日というわけでもなさそうなので理由を聞いてみると、ゾロ目でめでたい気分になったから、だそうだ。理由にもならない理由に溜息をつきそうになって堪えると笑いがこみ上げてきて、二人して玄関で笑った。


12  この気持ち、文にしたためて
出動が終わって俺が帰るとアンドリューが出かける、すれ違いが続いた朝。寝室のベッドの上には一通の手紙が置いてあった。一人しかいない差出人を思い浮かべて手紙を開くと、労いの言葉とともに普段面と向かっては言えない気持ちを文にしたためておく、というような内容で顔が緩んだ。


13  冷たい
夕方の雨で急に下がった気温に、コートの襟を掴んで寄せた。すれ違いが続いていたが、予定通りなら今日の夕飯は一緒にとれるだろうと足早に帰り着くと室内は照明がついていて、温かいリビングに心まで温まる。俺の頬に手をあてたライアンが「冷たい」と言って大きな掌で体温を分けてくれた。


14  弾むように歌う声
うまいと褒められて、鼻歌からいつの間にか結構本気で歌っていたことに気付く。何の曲かと聞かれ、クリスマスの歌だった気がすると答えると、弾むように歌っていたから楽しい思い出の曲だろうと思ったと納得された。アンドリューにも楽しい記憶を紐解くような、そんな歌があるのだろうか。


15  内緒の合図
二人だけにしか分からない合図を欲しがるライアンに、秘密だとか内緒という類は気恥ずかしいと思う自分がいる。そんなの無くても困らないと言うと、他人がいるところで内緒のやりとりをするのがロマンだと力説され、ウインクを左右交互にされたら帰りにヨーグルトを買うサインが決まった。


16  これが限界
初めて向こうからされたキスは頬、いや耳だったかもしれない。リップ音がやけに大きかったのが印象に残ってる。俺から強請ってしてもらったそれはとても可愛いものだった。今はこれが限界ですと、申し訳なさと照れと怒りが混じったような顔だったのに、今では戸惑いなく唇にされる。


17  何度でも繰り返す
もう大丈夫だと言っても離してくれず、何度も名前を呼ばれ、繰り返し背中を軽く叩く手に安心させられる。うなされて起きる夜はいつもこうだ。情けないと言わずとも顔に出ているのだろうに、小さな明かりしかつけないライアンは見てないフリを装っているのか、いつだって何も言わない。


18  息をすることさえ忘れ
息をするのを忘れたかのように、苦しそうに途切れ途切れの声を発するアンドリューの肩を暗闇の中そっと触れる。回数は少なくなってるものの、夜にうなされることは無くならない。こちらを見やる濡れた金の瞳がいつも申し訳無さそうで、そうじゃなくもっと甘えてくれたらいいのにと思う。


19  辛辣な口調
公私混同されるのが嫌いだと知っていて、偶にライアンはこちらを試すような言動をする。さらりと流すことの方が多いが、状況や心境によって出来ない時もある。今日がまさにそれで、辛辣な口調で返してしまった。本気じゃないと分かっていても、拗ねたような態度を取る彼の姿に後ろめたい。

 

20  素振り
俺が拗ねてみても、アンドリューが自ら近づいてくれることはあまり多くない。大体が放置、酷い時はそれすら忘れてる時もある。構って欲しくて拗ねてるわけでもないけど、少し距離を置いてこちらを気にする素振りをしてくれる時は、ちょっと嬉しい。嬉しいからもう少しだけこの距離を保つ。


21  胸の痛みの理由
ニュースで流れたゴシップか、社内で耳にした噂話か。胸をさす痛みの原因がどれかは分からないが、こんな顔をしたままで帰れば目敏く気付かれて理由を聞かれるまで離してはくれないだろう。悩みとも不安とも違う、この感情を説明出来ない不器用さすら、いつも彼は受け入れてくれる。


22  それが親心
平穏な日々を過ごせるようになった今、父を思い出すことが多くなった。復讐も叶わず生きている俺を、父は恨んでいるだろうか。馬鹿な考えだと分かりつつ口にした言葉に「アンディが今幸せなら、むしろ喜んでんじゃねーの?それが親心だろ」と言われ、少し顔を伏せて返事をした。


23  一生分の運
割と運がいい方だという自覚はあるものの、それなりにピンチも訪れる。俺が傍にいると不幸になるんじゃないかというアンドリューの言葉に、アンタを手に入れて一生分の運を使い切ったから、これからは一緒にいてアンタの幸運に俺も巻き込んでよと言うと、口を開けて放心された。


24  星降る夜
寒い夜に防寒具を着込んで着いたのは街が見渡せる小高い山の上。流星群のニュースは数日見ていたが、ベランダからでも見えるだろうと朝言っていたのに、まさかここまで来るとは。小さな星が降る光だけの真っ暗な中でも、ライアンの存在は決して見失うことはない。


25  鏡の中の偽り
向かい合った鏡の中、何の悩みもなさそうないつも通りの顔の自分がいる。鏡は心の中までは映してくれない。部屋に篭ってしまったアンドリューにどうやって外に出てきてもらおうか、ものすごく悩んでいるのは鏡のこちら側の俺だけだ。吐き出した溜息すら、鏡の中では軽そうに見えた。


26  旅行の計画
次の休みは旅行に行こうとライアンが言い出した。いつものように行き先もホテルも決めて飛行機の手配を頼まれるものだと思っていたら、薄いパンフレットが渡された。今回は行く場所から相談して決めたい、どこに行きたい?と言われた。急にいつもと違うパターンは困るから止めて欲しい。


27  都
どこへ行きたいか聞いた甲斐もあり、アンドリューが選んだ国へ旅行に来た。小さな国だけあって、首都であっても騒がしすぎることもなく過ごしやすい。これが選んだ理由かと思っていたら「他からの情報がほとんど入ってこない国なので、君も声を掛けられない」と聞かされ、やられたと思った。


28  土の下
「土の下はどんな感じなんでしょうね」父さんの墓参りに一緒にきたライアンの口数が少ないことが気になり、何か会話をと思ったのが始まりだった。我ながら変な質問だと後悔したのだが「涼しくて静かで意外と快適だったりして」と言われ、確かにそれはいいなと笑えて、何処かほっとした。


29  世間とのズレ
長く閉鎖的な場所にいたからか、世間とズレていることが多少ある。世間一般と当てはめられるのは俺も嫌いだから、多少ズレていようが互いに不愉快で無ければそれで構わない。でもシャワー上がりに薄着な俺を注意するくせに、自分は寝る時に下着一枚とかいうことがあるのは勘弁して欲しい。


30  終わってないの!?
ダイニングで仕事をしている俺の視界に入る位置にライアンがずっといる。時折コーヒーや紅茶をいれてくれるのは嬉しいが、少し監視されているようで落ち着かない。作業が一件片付き一息入れて次の資料を手に取ると、まだ終わってなかったのか…と小さな呟きがソファから聞こえた。

 

こちらのお題をお借りしています。

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1年365日のお題-10月

25  偽りの私
信念を貫いて生きてきたはずなのに自身が分からなくなる時がある。どこまでが、あるいはどこからが本当の自分なのか。そんなことに悩んでいると、見透かされたように眉間の皺を伸ばされる。「俺にしたら全部アンディだけどな」その一言で、悩むことすら自らの一部であるような自信に変わる。


26  風が運ぶもの
ふわりと過ぎった香りは、出張先のホテルで気に入って購入したボディシャンプーのそれ。自分が、というよりも、洗えれば何でもいいという恋人のために土産にしたのが意外にも気に入ってもらえたようで、今では彼の香りとして定着するほどで。選んだものを傍に置いてもらえる喜びを知った。


27  地図にも載っていない
地図に載ってない島がある。そう聞かされて数日後にはその島に来ているのだから、彼の傍に居ると本当に退屈しない。新しい仕事の依頼主でもいるのかと予想していたが、ただの休暇目的らしい。見たことのない動植物と、今まで見たどの風景とも違う自然の表情に、胸が騒ぐのを感じた。


28  瘡蓋
あまり筋肉質でない腕に出来た瘡蓋を無意識に掻いている。いつそれが爪に引っかかって取れるかと見てるこちらは正直穏やかではない。勝手な願いだが痕は残って欲しくないから、自然に取れるまでは触らないで欲しいのに。そんな願望を込めた視線に気付いたアンドリューが気付いて手を止めた。


29  電話越しに聞いた声
仕事の依頼主の元へ自ら赴いたライアンから、数日振りの着信があった。互いの時間を気にせずに送れるメールなどのツールで連絡を取り合うことが多いため、通話そのものが久しぶりだ。『明日中には帰れそう』分かった、気をつけてとしか返せなかったが、電話越しの声も、いいなと思った。


30  友達甲斐のない
明日が誕生日だとずっと前から知っていただろうに、何を贈ろうか、むしろ自分なんかが贈ると迷惑なのでは、などと悩んでいるからそれは友達甲斐が無いんじゃないかと言うときょとんとした顔。本人的には恩人というくくりかもしれないが、俺にしたら妬けるほどの仲の良さだよ、アンタ達は。


31  大きな南瓜
帰宅したら大きなカボチャがいた。正確には顔の前でカボチャを持ったライアンだ。何に使うのかなど、帰り道の街の装飾や雰囲気で嫌というほど知っている。くり抜いた中身はシチューとケーキでもいかかですかと提案すると、賛成と嬉しそうな顔がカボチャの横から飛び出した。

 

こちらのお題をお借りしています。

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Kiss before sleep

 おやすみ。

 そう言って唇にキスをすると、アンドリューの身体は決まって強張ってしまう。

 挨拶だとこちらが言っても、習慣が無い相手にしたらそれは挨拶には取れず、徐々に自分のしていることが嫌がらせのように思えてくるから困ったものだ。かと言って、慣れてくれというのも傲慢な気がして仕方ない。

 軽く触れるだけにしているが、唇なのが問題なのかもしれない。ふと思い立ち、その日の夜は額におやすみの挨拶を落とした。いつも顔しか近づけないのに、前髪を掻き分けるために手を近づけたからか一瞬肩を揺らしたものの、すぐに終わった挨拶に呆けて瞬きもせずにこちらを見ているアンドリューに小さく笑って、おやすみを告げた自分の寝室へと足を向けた。

「…そうか」

 背中を向けたアンドリューから小さく聞こえた言葉が聞きづらくて、呼び止められたのかと思い振り向くと、銀髪の小さな頭がすぐ目の前にあって。

「ア」

 名前を呼ぼうとした俺の肩に手を置いて、どうしたと思った次に頬を掠めていったぬくもり。

「唇じゃなくてもいいなら、俺にも出来そうだ」

 おやすみ、ライアン。

 微笑んだかのように見えた顔はすぐに見えなくなって、自室へ向かう背中しか見えなくなった。心なしか足取りが軽やかに見える。

「頬でもいい、って言えば良かったのか」

 頬から慣れていき、いずれは自分と同じように唇にしてくれる日を待ちわびる。その日が来るかもしれないと思うだけで浮かれる俺は、もうしばらく眠れそうに無い。

 

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「Colors」A5/64ページ/800円/ノベルティ付き/合同誌

Rising数年後、一緒に暮らし始めた獅子秘書の一年を漫画+小説で交互に追う話。

執筆者(漫画--久慈ケイ・東大和・冬路ジン)(小説--カヅキ・夏紡・さくや)

 

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SUMMER DAYS」A5/20ページ/300円/個人誌【残部少】

Rising数年後、獅子秘書の二人が初めて一緒に過ごす夏。

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「Meeting of the constellation」A5/32ページ/300円/個人誌【残部少】

Rising数年後、アンドリュー出所から獅子秘書が恋人になるまでの話。

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